誉富士について

静岡県で初めてとなる酒米(酒造好適米)のオリジナル品種が育成されました。“酒米の王者”とも呼ばれる「山田錦」の人為的突然変異によって得られた品種で、醸造適正の高さが期待されています。また、県内酒造会社の優れた醸造技術によって、新たな銘酒(地酒)の誕生と、地産地消の推進が期待されます。 県は、酒造組合や経済連などの関係機関と静岡県酒米研究会を設置して、「誉富士」の栽培・品質の安定性と醸造適正の判定を行い、奨励品種とこれに続く産地化を検討しています。静岡県農林技術研究所栽培技術部宮田祐二主任研究員にお話を伺いました。

▲誉富士(「静系(酒)88号」)を開発された、静岡県農林技術研究所の宮田祐二主任研究員。

▲試験育種中の「静系(酒)88号」。山田錦の突然変異育種という方法で、98,000固体という膨大な数から選抜された。

──今までいろいろな酒蔵さんを見学したり、取材をしたりしてきたわけですが、皆さん県産米ということで「誉富士」に対する期待度が高かったように思いました。「誉富士」はどのようにして生まれたのかお聞かせください。
はい、平成10年に「山田錦」の種子籾に放射線(γ線)を照射させて、1世代採種栽培を行いました。平成11年には約98,000固体を栽培し、その中から短稈化や早生化など、有益な突然変異と思われる約500個体を選抜しました。この固体選抜の規模は突然変異育種としては、過去50年間で国内最大規模になっています。平成12年以降は、系統選抜の手法によって、特性が優れた系統を徐々に絞込み、短稈で栽培しやすく、収穫量が安定して、米粒の形状、外観が「山田錦」とよく似た「誉富士」(静系(酒)88号)を選抜したのです。高さが1mと倒れやすい山田錦に比べて、背丈は低く、たんぱく含有量が少ない。なんといっても心白の形状が良い・・・。これは!と思いましたね。
──その何万もの固体の中から、どのように仕分けしていったのですか?
根気よく手作業です。新しい最良の品種を探すのには、田んぼの中に分け入って、一本一本計測したり、籾の状態を見たり、地道で根気のいる作業の連続です。

▲誉富士(「静系(酒)88号」)を開発された、静岡県農林技術研究所の宮田祐二主任研究員。

▲試験育種中の「静系(酒)88号」。山田錦の突然変異育種という方法で、98,000固体という膨大な数から選抜された。

──今までいろいろな酒蔵さんを見学したり、取材をしたりしてきたわけですが、皆さん県産米ということで「誉富士」に対する期待度が高かったように思いました。「誉富士」はどのようにして生まれたのかお聞かせください。
はい、平成10年に「山田錦」の種子籾に放射線(γ線)を照射させて、1世代採種栽培を行いました。平成11年には約98,000固体を栽培し、その中から短稈化や早生化など、有益な突然変異と思われる約500個体を選抜しました。この固体選抜の規模は突然変異育種としては、過去50年間で国内最大規模になっています。平成12年以降は、系統選抜の手法によって、特性が優れた系統を徐々に絞込み、短稈で栽培しやすく、収穫量が安定して、米粒の形状、外観が「山田錦」とよく似た「誉富士」(静系(酒)88号)を選抜したのです。高さが1mと倒れやすい山田錦に比べて、背丈は低く、たんぱく含有量が少ない。なんといっても心白の形状が良い・・・。これは!と思いましたね。
──その何万もの固体の中から、どのように仕分けしていったのですか?
根気よく手作業です。新しい最良の品種を探すのには、田んぼの中に分け入って、一本一本計測したり、籾の状態を見たり、地道で根気のいる作業の連続です。
──お聞きしただけでもだけでも気が遠くなるような作業ですが、後は酒米としてどうなるか、ということですね。
 平成15年以降は、奨励品種決定調査においてより細かく特性を調査・把握すると共に、酒米として重要な精米試験や、沼津工業技術センターにおける小仕込み醸造試験を実施しています。 平成17年からは、植付時期や施肥など栽培法の場内試験も併せて実施すると共に、実際の農家による現地試作を行い、この生産物で醸造試験も実施しています。
──「誉富士」という名前は、どなたが付けたのですか?
 名前を公募したものの中から、石川県知事が選んでくれたものです。これが平成18年に受理され、親品種としての権利が生まれました。そして昨年には現地審査も終了し、今年度内に正式な品種登録が認められる見込みです。
──「誉富士」、静岡らしいいい名前です。実際に使う段階に行き着くまでの道程は遠いものなのですね。
 そうですね、「できた」からといってすぐに使えるものではないですからね。平成17年度から実際の農家における試作を各地で実施し、現地適応性を検討しています。生産物は静岡県酒造組合の全面的な協力の下で、実際の酒造会社によって試験醸造され、大規模な醸造適正試験を実施しています。
──大規模とおっしゃいますと、どのくらいの農家、酒蔵が携わっているのですか?
平成17年度は、県下5地域(焼津市、菊川市、掛川市、袋井市、磐田市)16名の農家で合計4.5haで試験栽培を行い、酒蔵7社(万大醸造、高嶋酒造、富士高砂酒造、神沢川酒造、三和酒造、初亀醸造、大村屋酒造場)によって試験醸造されました。初年度のことなので心配していたのですが、まずまずの結果が得られ、一部市販された銘柄は消費者からも高い評価を受けることができました。

▲誉富士の玄米(写真上)と60%精米された状態(写真下)。磨かれた米の中央、白い部分が心白(しんぱく)。心白はウェハス状の構造となっているため、その隙間で麹菌が繁殖しやすい。ただ、心白が大きすぎると精米時に割れやすいため、“粒が大きくて線状に心白が現れる”のが、良い酒米の条件のひとつ。その代表格が、“酒米の王様”といわれる山田錦。誉富士は、粒の大きさ・心白形状とも山田錦とほぼ同様に発現する。

▲刈り入れ前の誉富士(左)と山田錦(右)の比較。誉富士は山田錦に比べ、20センチ以上も背の低い短稈種のため、強い風雨でも倒伏しにくいという特徴がある。

▲写真左から「山田錦」「誉富士」「若水」。誉富士は、山田錦の良い点を受け継ぎながら、短稈種化した品種と考えると分かりやすい。

▲平成17年、7社(万大酒造・高嶋酒造・富士高砂酒造・神沢川酒造・三和酒造・初亀醸造・大村屋酒造)が、初の大規模試験醸造を実施。開発者(県)、米生産者、JA(経済連)、静岡県酒造組合、各酒造会社等が連携し、異例ともいえる短期間での新製品開発を実現させた。

──よく年は、またひとまわり広い地域で作付けされたのですね。
 18年度は、県下11市町(御殿場市、富士宮市、芝川町、焼津市、大井川町、岡部町、菊川市、掛川市、袋井市、磐田市、浜松市)32名の農家、合計12.5haに試験栽培を拡大しました。生産したものは、前年度と同じ酒蔵に加え、新たに8社(富士錦酒造、萩錦酒造、杉井酒造、森本酒造、土井酒造、千寿酒造、花の舞酒造、浜松酒造)を加えた合計15社によって試験醸造を行いました。市販された清酒も前年度に引き続き消費者に好評で、2社の銘柄は、第56回名古屋国税局酒類鑑評会において優等賞を受賞しています(純米酒の部、本醸造の部)。
──早速、名古屋で受賞というのは、嬉しいですね。
 19年度は、試作地を伊豆の国市や沼津市にも広げ、合計15.7ha(農家30名)で栽培されました。試験醸造も富士正酒造1社が新たに加わり、16社で試験醸造される見込みです。
──またどんな結果になるのか楽しみですね。米・水・酵母・・・と揃えば、完全なる静岡ブランドのお酒ということになります。この米粒のひとつひとつに宇宙があって、限りない可能性が潜んでるのですね。
 そうですね。ここまでこれたのも、農家の方々、酒造会社、酒販店の方たちがとてもよく盛り上げてくださいました。本当にありがたく思っています。細かい米をひとつひとつ取り出す作業、計測作業は根気のいる作業の連続です。でも、機械ではできません。だから、我々がひとつひとつ見守りながら、確認しながらやっていきます。地道な作業ですが、実れば大きい、喜びも大きいのです。
──よく分かります。 本日は、ありがとうございました。

▲写真左から「山田錦」「誉富士」「若水」。誉富士は、山田錦の良い点を受け継ぎながら、短稈種化した品種と考えると分かりやすい。

▲平成17年、7社(万大酒造・高嶋酒造・富士高砂酒造・神沢川酒造・三和酒造・初亀醸造・大村屋酒造)が、初の大規模試験醸造を実施。開発者(県)、米生産者、JA(経済連)、静岡県酒造組合、各酒造会社等が連携し、異例ともいえる短期間での新製品開発を実現させた。

──よく年は、またひとまわり広い地域で作付けされたのですね。
 18年度は、県下11市町(御殿場市、富士宮市、芝川町、焼津市、大井川町、岡部町、菊川市、掛川市、袋井市、磐田市、浜松市)32名の農家、合計12.5haに試験栽培を拡大しました。生産したものは、前年度と同じ酒蔵に加え、新たに8社(富士錦酒造、萩錦酒造、杉井酒造、森本酒造、土井酒造、千寿酒造、花の舞酒造、浜松酒造)を加えた合計15社によって試験醸造を行いました。市販された清酒も前年度に引き続き消費者に好評で、2社の銘柄は、第56回名古屋国税局酒類鑑評会において優等賞を受賞しています(純米酒の部、本醸造の部)。
──早速、名古屋で受賞というのは、嬉しいですね。
 19年度は、試作地を伊豆の国市や沼津市にも広げ、合計15.7ha(農家30名)で栽培されました。試験醸造も富士正酒造1社が新たに加わり、16社で試験醸造される見込みです。
──またどんな結果になるのか楽しみですね。米・水・酵母・・・と揃えば、完全なる静岡ブランドのお酒ということになります。この米粒のひとつひとつに宇宙があって、限りない可能性が潜んでるのですね。
 そうですね。ここまでこれたのも、農家の方々、酒造会社、酒販店の方たちがとてもよく盛り上げてくださいました。本当にありがたく思っています。細かい米をひとつひとつ取り出す作業、計測作業は根気のいる作業の連続です。でも、機械ではできません。だから、我々がひとつひとつ見守りながら、確認しながらやっていきます。地道な作業ですが、実れば大きい、喜びも大きいのです。
──よく分かります。 本日は、ありがとうございました。

誉富士の特性

  1. 出穂、成熟期は「山田錦」と同等の晩成熟期です。
  2. 稈長が「山田錦」より24cm短く、穂長もわずかに短い、穂数はほぼ同じです。
  3. 下位節間が短く、稈質がやや硬いため極めて倒伏しにくい品種です。
  4. 止葉は「山田錦」と同様になびき、穂は穂軸が柔らかくなびきやすい傾向です。
  5. 玄米の品質・粒大は「山田錦」と同等で、収量性は「山田錦」より高いと推測されます。
  6. 「山田錦」と同様に、いもち病に弱く、穂発芽しやすいが、脱粒性は、やや難に変化しています。
  7. たんぱく含有量は「山田錦」並みで低く、優れます。
  8. 心白の発現は「山田錦」よりも多く、玄米断面における心白の形状は線状です。
  9. 精米特性は、ほぼ「山田錦」並みで、高度精白にも耐えられます。

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